第2 技術基準の運用について


規則第25条の2第2項第3号ハの規定に基づく放送設備のスピーカーの設置に係る技術上の基準については、次により運用するものとする。 

 

1 用語の意義等について


用語の意義等については、規則及び告示第6号の規定によるほか、次によること 

 

(1) 音圧レベル 

  • ア 意義 

音圧レベルとは、音波の存在によって生じる媒質(空気)中の圧力の変動分(音圧)の大きさを表す量で、一般的に次式により定義されること 

 

 

P=10log₁₀( P²/Po² )

 

Pは、音圧レベル(単位  デシベル) 

P’は、音圧の実効値(単位  パスカル) P0’は、基準の音圧(=20×10⁻⁶パスカル) 

  • イ 運用 

音圧レベルは、第2シグナルのうち第3音を入力した時点の値(=騒音計で測定した場合の最大値)によること 

 

(2) 音響パワーレベル 

  • ア 意義 

音響パワーレベルとは、音源(スピーカー等)が空間内に放射する全音響パワー(音響出力)、すなわち1秒当たりに放射する音響エネルギーの大きさを表す量で、一般的に次式により定義されること

 

P=10log₁₀( W/Wo )

 

Pは、音響パワーレベル(単位  デシベル) 

Wは、音源の音響パワー(単位  ワット)

W0は、基準の音響パワー(=1×10⁻¹²ワット) 

 

音響パワーレベルと音圧レベルは、音源からの放射音の表示量として用いられる点において同様であるが、音圧レベルが音源の性状のほか測定位置等により変化するものであるのに対し、音響パワーレベルは原理的に音源の性状のみに依存する点において異なるものであること。

また、音響パワーレベルは、一般的に「パワーレベル」や「音響出力レベル」とも表現されること 

  • イ 運用 

音響パワーレベルの測定方法は、告示第4第5号(1)ロの規定により、第2シグナルを定格電圧で入力してJISZ8732(無響室又は半無響室における音響パワーレベル測定方法)又はJISZ8734(残響室における音響パワーレベル測定方法)の例により測定することとされているが、その具体的な取扱いは次によること 

 

(ア) スピーカーの音響パワーレベルは、第2シグナルのうち第3音を入力した時点の値に相当する値によること 

 

(イ) 測定に当たっては、第2シグナルを30秒間以上入力すること。この場合において、第2シグナルは下図のような波形を有するものであることから、 当該測定値に次式による補正を加えた値をもって、スピーカーの音響パワーレベルとして取り扱うこと 

 

p=pm+4 

pは、スピーカーの音響パワーレベル(単位  デシベル) 

pmは、JISZ8732又はJISZ8734の例による測定値(単位  デシベル) 

音響パワーレベルの測定における第2シグナルの波形
図 音響パワーレベルの測定における第2シグナルの波形

(補正値)=10log₁₀(0.5×5+1.5/0.5×3)≒4dB

 

(ウ) JISZ8732又はJISZ8734と同等以上の精度を有する測定方法についても、音響パワーレベルの測定方法と音響パワーレベルの測定方法として認めて差し支えないこと 

 

(3) スピーカーの指向係数 

  • ア 意義 

スピーカーの指向係数とは、スピーカーの指向特性を表す数値で、一般的に次式により定義されるものであること

 

Q = Id/I₀

 

Qは、スピーカーの指向係数 

Idは、スピーカーからの距離dの点における直接音の強さ 

Ioは、スピーカーからの距離dの位置における直接音の強さの全方向の平均値 

  • イ 運用 

スピーカーの指向係数は、スピーカーの基準軸(スピーカーの開口面の中心を通る開口面に垂直な直線をいう。)からの角度に応じた値とすること。

また、一般的に用いられているタイプのスピーカーにあっては、その指向特性区分に応じ、次表に掲げる値とすることができること

指向特性区分 該当するスピーカータイプ 指向係数
0°以上15°未満 15°以上30°未満 30°以上60°未満 60°以上90°未満
W コーン型スピーカー 0.8
M

ホーン型コーン型スピーカーまたは

口径が00㎜以下のホーンスピーカー

10 0.5
N

口径が200mmを超える

ホーンスピーカー

20 0.5 0.3

 

(4) 当該箇所からスピーカーまでの距離 

  • ア 意義 

当該箇所からスピーカーまでの距離とは、放送区域の床面からの高さが1メートルの箇所からスピーカーの基準点までの直線距離をいい、スピーカーからの放送を受聴する代表的な位置を意味するものであること 

  • イ 運用 

当該箇所からスピーカーまでの距離を算定するにあたり、令第32条の規定を適用して、次により取扱うこととして差し支えないこと 

 

(ア) 放送区域の構造、設備、使用状況等から判断して、スピーカーからの放送を受聴する位置が「床面からの高さが1mの箇所」と異なる部分にあっては、実際に受聴する位置からスピーカーまでの距離により算定することができること 

 

(イ) 放送区域の構造、設備、使用状況等から判断して、スピーカーからの放送を受聴する可能性のない放送区域の部分(人の立入る可能性の全くない部分)にあっては、規則第25条の2第2項第3号ハ(イ)及び (ロ)の規定による音量及び明瞭度を確保しないことができること 

 

(5) 放送区域の平均吸音率 

  • ア 意義 

放送区域の平均吸音率とは、放送区域に音波が入射した場合において、その壁、床、天井等が吸収又は透過する音響エネルギーと入射した全音響エネルギーの比の平均値をいうこと 

  • イ 運用 

放送区域の平均吸音率は、厳密には放送区域の区画の構造、使用されている個々の内装材、収納物等の種類(吸音率)及び面積、入射音の周波数等により異なる値をとるものであるが、次により取り扱うこと 

 

(ア) 規則第25条の2第2項第3号ハ(イ)及び(ロ)に掲げる式の算定に当たっては、放送設備の音声警報音の周波数帯域を勘案し、2kHzにおける吸音率によること。

なお、残響時間の算定に当たっては、 (7)イ(ア)に掲げるとおり500Hzにおける吸音率によること 

 

(イ) 通常の使用形態において開放されている開口部(自動火災報知設備と連動して閉鎖する防火戸が設けられている場合を含む。)の吸音率は0.8とすること 

 

(ウ) 吸音率が異なる複数の建築材料が用いられている場合の平均吸音率は、次式により算定すること(別紙1参照) 

 

α=ΣSnαn/ΣSn

 

αは、平均吸音率 

Snは、建築材料の面積(単位  平方メートル) 

αnは、建築材料の吸音率 

 

(6) 放送区域の壁、床及び天井又は屋根の面積の合計 

  • ア 意義 

放送区域の壁、床及び天井又は屋根の面積の合計とは、当該放送区域を区画する壁、床及び天井又は屋根のほか、これらに存する開口部を含めた面積の合計をいうこと 

  • イ 運用 

通常の使用形態において複数階の部分と一体的な空間をなすアトリウム等が存する場合にあっては、防火区画を形成するための防火シャッター等の位置により、階ごとに放送区域を設定すること

アトリウム等が存す る場合における放送区域を設定方法 非常
アトリウム等が存す る場合における放送区域を設定方法

 

(7) 残響時間 

  • ア 意義 

残響時間とは、放送区域内の音圧レベルが定常状態にあるとき、音源停止後から60デシベル小さくなるまでの時間をいうこと 

  • イ 運用 

残響時間は、厳密には放送区域の区画の構造、使用されている個々の内装材、収納物等の種類(吸音率)及び面積、入射音の周波数等により異なる値をとるものであるが、(5)イ((ア)を除く。)及び(6)イによるほか、 次により取扱うこと 

(ア) 残響時間は、500ヘルツにおける値とすること 

(イ) 残響時間は、次式により算定すること 

 

T= 0.161× ( V/Sα )

 

Tは、残響時間(単位 秒) 

Vは、放送区域の体積(単位 ㎥) 

Sは、放送区域の壁、床及び天井又は屋根の面積の合計(単位 ㎡)

αは、放送区域の平均吸音率 

 

 

2 スピーカーの設置方法について


スピーカーの設置方法については、規則第25条の2第2項第3号ハの規定によるほか、次によること 

(1)  全般的な規定の趣旨等 

  • ア 規定の趣旨 

(ア) 規則第25条の2第2項第3号ハ(イ)及び(ロ)の規定は、階段又は傾斜路以外の場所(居室、廊下等)における警報内容の伝達に必要な音量及び明瞭度の判断基準を定めたものであること。したがって、スピーカー仕様や設置間隔を具体的に定めた同号イ及びロの規定と異なり、所要の音量及び明瞭度を確保することができれば、設置するスピーカーの仕様や放送区域内の配置については、自由に選択することができること。

 

(イ) 規則第25条の2第2項第3号ハ(ハ)の規定は、階段又は傾斜路におけるスピーカーの設置方法を定めたものであり、内容的には同号ロ(ハ)の規定と同一であること 

  • イ 運用 

(ア) 規則第25条の2第2項第3号ハ(イ)及び(ロ)を適用する場合には、計画段階において計算により設置するスピーカーの仕様や放送区域内の配置を決定することとなることから、竣工時における基準適合性を確保するためには、余裕をもった設計を行う必要があること。

また、放送区域内の収納物等についても、これらの影響により実際の音量や明瞭度が著しく変化する場合があるので、設計に当たり留意する必要があること 

 

(イ) スピーカーの設置方法を選択するに当たり、一の放送区域において規則第25条の2第2項第3号イ及びロの規定と同号ハの規定を併用することは認められないものであること。

また、同号ハの規定に基づきスピーカーを設置した放送区域に隣接する放送区域について、同号ロ(ロ)ただし書の規定によりスピーカーの設置を免除することは、警報内容の伝達に必要な音量及び明瞭度が確保されないおそれがあることから、一般的には認められないこと。ただし、 透過損失の影響等を考慮のうえ、(3)イ(ア)に掲げる手法等により所要の音量及び明瞭度が得られると認められる場合にあっては、この限りでない。 

 

(ウ) 防火区画を形成するための防火シャッター等が存する場合にあっても、通常の使用形態において区画されていなければ、一般的には一の放送区域として取り扱われる(1(6)イに掲げる場合等を除く。)ものであるが、スピーカーの設置に当たっては、当該防火シャッター等の閉鎖時にも警報内容の伝達に必要な音量及び明瞭度が得られるよう留意する必要があること。

 

(エ) 防火対象物の増築、改築、間仕切変更等の際には、スピーカーの設置に係る基準適合性を確認する必要があること。この場合において、規則第25条の2第2項第3号ハの規定により所要の音量及び明瞭度が確保されているときは、スピーカーの増設、移設等の措置を講じる必要はないこと。

 

(2) 音量の確保 

  • ア 規定の趣旨 

(ア) 音量の確保の観点から、規則第25条の2第2項第3号ハ(イ)の規定により、スピーカーは、放送区域ごとに、次の式により求めた音圧レベルが当該放送区域の床面からの高さが1メートルの箇所において75デシベル以上となるように設けることとされていること(別紙2参照)

 

 

P=p+10log₁₀{(Q/4πr²) + (4(1- α ) /Sα ) }

 

Pは、音圧レベル(単位  デシベル) 

pは、スピーカーの音響パワーレベル(単位  デシベル) 

Qは、スピーカーの指向係数 

rは、当該箇所からスピーカーまでの距離(単位  メートル) 

αは、放送区域の平均吸音率 

Sは、放送区域の壁、床及び天井又は屋根の面積の合計(単位 ㎡)

 

(イ) 当該規定は、スピーカーからの放送を受聴する代表的な位置(=床面からの高さが1mの箇所)において、警報内容の伝達に必要な音量(=75dBの音圧レベル。就寝中の人を起こすために最低必要な音量に相当)を確保することを趣旨とするものであること 

  • イ 運用 

音圧レベルの算定については、スピーカーから放射された直接音(=スピーカーの 音響パワーレベル)の当該方向への配分及び距離減衰(=Q/4πr²)と放送区域内における反射音(=4(1-α) /Sα)によることとしているが、実際に測定を行った場合においても、75dB以上の音量が確保される必要があること。

 

(3) 明瞭度の確保 

  • ア 規定の趣旨

(ア) 明瞭度の確保の観点から、規則第25条の2第2項第3号ハ(ロ)の規定により、スピーカーは、当該放送区域の残響時間が3秒以上となるときは、 当該放送区域の床面からの高さが1メートルの箇所から一のスピーカーまでの距離が次の式により求めた値以下となるように設けることとされていること。

 

 

r=3/4 {√QSα/π(1- α ) }

 

rは、当該箇所からスピーカーまでの距離(単位  メートル) 

Qは、スピーカーの指向係数 

Sは、放送区域の壁、床及び天井又は屋根の面積の合計(単位  平方メートル)

 

αは、放送区域の平均吸音率 

(イ) 当該規定は、残響によりメッセージの明瞭度が著しく低下するおそれのある放送区域(=残響時間3秒以上)について、スピーカーからの放送を受聴する代表的な位置(床面からの高さが1mの箇所)において、警報内容の伝達に必要な明瞭度を確保することを旨とするものであること。 また、距離の算定については、明瞭度確保の判断基準として一般に用いられている、臨界距離(直接音と反射音の強さが等しくなる距離をいう。)の3倍によるものであること 

  • イ 運用 

(ア) 明瞭度については、規則第25条の2第2項第3号ハ(ロ)の規定によるほか、IEC(国際電気標準会議)268-16のSTI(Speech Transmission Index)、RASTI(Rapid Speech Transmission Index)等の手法により確認されたものについても認めて差し支えないこと 

 

(イ) 一のスピーカーにより10mを超える範囲を包含することとなる場合であって、当該放送区域の残響時間が比較的長い放送区域(残響時間がおおむね1秒以上)や大空間の放送区域(一辺がおおむね20㎡以上のホール、 体育館、物品販売店舗の売場、間仕切の少ないオフィスビルの事務室等)である時には、規則第25条の2第2項第3号ハ(ロ)の規定や(ア)に掲げる手法等の例により、避難経路等を中心として明瞭度の確保を図ることが望ましいこと